5/30/2016

msb ニュースレター May

若葉薫る、風かおる、惜春の候、日本では普段の手紙だけでなく、ちょっとした挨拶文、例会のお知らせなどでも冒頭には必ずと言っていいほどに季節に関する言葉、時候の挨拶から始まります。季節に関する言葉が冒頭にあると、その後の流れにスムーズに入っていけるような気がするのは日本人の習慣かもしれません。
ところが、若葉が目にしみる、などと芽吹いてくる若い緑を愛でている間もなく一気に夏がやってくるのがニューヨークで、まだ5月の末というのに、メモリアルデーの後は夏になりそうな気配です。

《第21回ニューヨークで活躍する日本人日系人美術家展覧会》
 
日本人、日系人のコミュニティーセンター、日系人会で、今年で21回目を迎え毎年の慣例となった展覧会に、校友会から4人のメンバーが出品しました。

『本宮陽子さん“Sola’s nightⅠ Sola’s nightⅡ”』

濃いブルーの平面に四角、長方形の幾何学的な形体、建築の青写真のような線や形、宇宙空間の映像に表れるような形体、ビルディングのように四角を積み重ねているところもあり、それらのほとんどは線によって表されています。
Sola’s night  では宇宙船のようなもの、歯車のような形も見えます。これらの線や形が濃いブルーの空間に重力を持って浮かんでいます。これらは記号化された心の軌跡なのか、高度にデザイン化された記号は、音にも還元されて見る者の心に響いてくるようです。

『キノマホさん “おやゆびひめ”“ボートマン3”』

4枚の花びらの赤い花の中心にピーナッツがいます。赤いボートに乗っているピーナッツがいます。キノさんのピーナッツにはもうすっかりお馴染みになったような気がします。画面の中の構図の取り方の上手さ、どことなくフラジルなはかなさなどのスキルな手法などについて語る必要はもうありません。関心事は、今度はどんなピーナッツの物語を見せてくれるのかしらということだけです。じっと見ていると、ピーナッツたちが住む世界が何処かにあるような気がしてきます。そうして、キノさんのピーナッツたちを観覧する私たちがピーナッツの物語を作り出すのです。

『 依田順子さん “Untermyer Fountain”  “Bethesda Fountain”

2点とも、噴水の写真を依田順子さん独自のテクニックでコラージュした作品です。Untermyer   Bethesdaも、共にセントラルパークにある噴水で、Untermyerはダンスをする3人の女性のブロンズの彫刻。Bethesdaは同じくセントラルパークにある天使の彫刻で、背中の羽根を大きく広げ、祝福の手を差し伸べています。モチーフは噴水の写真ですが、長年、紙を張り込んだ独自のテクニックで作品を作ってきた順子さんの今回の作品は、写真を使っていますがもちろんただの写真の作品ではありません。画面全体は幻想的な青で、水の中の風景のようにも、青い空気の流れる静まり返った明け方へ向かう時の中に佇む風景のようにも見えます。それがどことなく古びた落ち着きを感じさせるのは、紙の操作には一流の順子さんの秘法とも言える独自のテクニックによるものだと思います。

『 依田寿久さん “Irises” A   “Irises” B 

依田さんの今までに見た作品ではどれも三角形の様々な様相を描いています。三角形という形は幾何学的でシャープな形というのが普通の印象ですが、依田さんがずっと描き続けている三角はとてもオーガニックな感じがします。自然の中にある形という感じがします。
そして今回の二つの作品のタイトルはアイリスです。小さな押し花のような、幾つもの小さな花の形のものが流れる水を思わせるテクスチュアーを施した抽象的な画面の中に、流れと一体となって描かれています。一点は10個ほど、もう一点はもっと花の点在が密集しています。地面に花びらが散っている姿を想像して頂くと視覚化しやすいと思います。その一部分をキャンバスの四角で切り取ったという感じです。
アイリスというタイトルなので花にこだわってしまいますが、実際は花のようには見えずに抽象画の印象が強く、むしろ、画面全体のテクスチュアーにこそ引きつけられる魅力を感じます。

『お知らせ』

毎月メールでお届けしているニュースレターは言葉による伝達だけで、言葉でどれほど表現しようとしても書き手にも、読む人にも理解の限界があります。ことに絵画、デザインなどの視覚的なものには一枚の写真は不可欠です。
そこで、オンラインの校友会ニュースレター、「msb! usa newsletter」には写真を掲載することにしました。今まで通り、メールでのニュースレターには写真を載せることは出来ませんが、オンラインの方に写真掲載をご希望の方は、写真を送ってください。
先月、4月のオンライン、ニュースレターには奥村泰子さんのインタビューの写真が掲載されています。ご覧下さい。

─—————————————————————————————————————

アメリカの大統領選挙は10ヶ月ほど前の予備選開始の頃の予想を裏切って、当初は泡沫といわれていたトランプが共和党の候補を確実にしました。民主党の方はほとんどヒラリー•クリントンが候補になるようですが、民主党の方でも予備選の出だしではこれまた泡沫と言われていたサンダースが粘り強く頑張っています。
毎日テレビのニュースにかじりつき、ニューヨークタイムズを広げる日々が続いていますが、27日にはオバマ大統領が広島を訪問するのも歴史的な出来事です。そしてこの夏には日本の天下分け目?の参議院選挙があります。立憲主義を今こそ真摯に考える時といえる今夏です。

筆:神舘美会子

企画、編集:小柳津美香