《年末のごあいさつ》
暖冬ですね。まるで秋のような気温。 それでもやっぱりクリスマスは来たし、 新年の足音はもうドアの外に聞こえます。
世界は相変わらず良いこと、悪いこと沢山あって、 それでもいつもの年の瀬を迎えようとしています。
日本は今年、戦後70年でとても政治的な年でした。 多くの戦争体験が語られ、今もそれは続いています。そんな中で、 何より画期的だったのは若者がデモを組織したことでした。(SE ALDs─ Student Emergency Action for Liberal Democracy)
デモという言葉は久しく死語とさえいってもいいほど、 日本人の日常からは消えてしまったように見えましたが、 若者たちだけでなく、 普通の市民が自分の意見をデモという行動の形で表現するというや り方に目覚めた年と言ってもいいと思います。考えてみれば、 デモが日本から消えてしまったように見えたのは、 概して日本が平和だったからでしょう。 デモが復活したのは人々に危機感があるからです。
さて、私たちの武蔵美支部会に目を移せば、支部会発足以来、 第2回目の展覧会を開いたことは、何より今年の収穫でした。 展覧会復活!
私たちアーティストにとって、 発表の場があることはうれしいことです。
展覧会場のMCギャラリーがこの後、出来れば毎年、 スペースを提供してくれればいいですね。
2016年が皆さんにとって良い年でありますように。 張り切って新しい年を迎えましょう。
《お知らせ、面白いアイディアなど募集しています》
グループ展、個展、どんな小さな発表でも、お知らせください。 ニュースレターに載せたいこと、仕事に関すること、 その他ご意見などもお寄せください。また、 イベントなどのアイディアなどがありましたらご連絡下さい。 アイディアだけで結構です。どんなアイディアでも、 もしかして皆の力で面白いものに発展させることが出来るでしょう 。
たとえば、一つのタイトルを決めて、 そのタイトルの元にそれぞれが作品を作るなど。 インスタレーション、ミュージックとのコラボ、社会的、 政治的な発言としてのアートなど、形式も問いません。
《Art Student Leagueのグループ展で西村理恵さんの作品を観ました》
11月のニュースレターでご紹介したGallery Onetwentyeight(マンハッタン、 ローアイーストサイド、128 Rivington St New York NY)でArt Student leagueに所属する日本人のメンバー10人のグループ展が1 2月の半ばからクリスマスイヴまで開かれていました。
そのオープニングで、 グループ展に出品されていた武蔵美出身の西村理恵さんにお会いし ました。
西村さんの作品は40インチ×40インチほどのキャンバスに、 様々な色の絵の具をスプラッシュしたようなテクニックで描かれた 、生命の躍動を感じさせる抽象画です。
最初、彼女はパフォーマンスをするというので、 彼女はパフォーマーであり、 またアーティストなのかと思っていたら、西村さんの場合、 パフォーマンスと絵画制作とは一つのものなのだということが分か りました。
パフォーマンスというのは体の動きです。 それは彼女にとっての一種の瞑想なのです。 瞑想にはじっと座ってやる方法と西村さんのように、目を閉じて、 体の赴くままに動くというやり方があります。禅の瞑想、 その他いろいろな分野で行われている瞑想とは、 どのような入り方であろうとも、 自己の無意識の奥深くへの旅へ赴くことです。
目を閉じて体を動かすことによって顕れ出るものを、 すでに目の前に用意されたキャンバスに向かって、 同じく用意されている絵の具で、 この瞬間に自己の身体という宇宙で駆け巡る純粋な感情を絵画とい う表現手段に置き換える、というのが西村さんのアートです。
これはまた、一つの自己解放、 ヒーリングというものではないかと思います。 西村さんは心のデトックスと言っていられましたが、彼女の場合、 誰の導きもなく、単独でその世界を旅することが出来るのは、 彼女が芸術家だからです。
キャンバスという視覚可能な、 そして形として存在するものを残しながら、 普通の絵画と違っているのは、西村さんという一人の人の心を、 そして身体を通過した感情の軌跡であるということです。
そして、軌跡といいながらも、なによりアートそのものとして、 その形態と色使いの美しさは、 見る者をハッピーにする力を持っています。 何故西村さんの作品がハッピーな生命の躍動を伝えているのかとい えば、パフォーマンスを通じ、彼女自身の中にある、 心の矛盾を解放しているからに他なりません。
西村さんは武蔵美の支部会のことをご存知なかったのでメンバーに お誘いしました。次の支部会の展覧会では、 西村さんのパフォーマンスアートを発表していただくことになりま すのでお楽しみに。
《丸木位里、丸木俊夫妻の「原爆の図」を観る》
今年6月から8月中旬まではワシントンDC、 9月から10月はボストンと巡回
していた丸木位里、俊夫妻の「原爆の図」の展覧会が、 11月から12月にかけて、最後の場所、 ここニューヨークで開かれました。
ブルックリン、レッドフックにある展覧会場Pioneer Worksは現代美術、 文化の実験的な場として2012年にオープンしています。 煉瓦の3階建ての建物の半分を、 1階から3階までをぶち抜いているので天井が高く、1階、2階、 3階の窓はそのまま残して、 見上げる窓から冬の陽が差し込んでいました。 その広々とした静謐な空間の窓とは反対側の長い壁に「原爆の図」 の屏風絵が展示されていました。全部で15点のシリーズの内、 6点が今回の巡回展覧会に日本より運ばれて来たのです。
広島は丸木位里の故郷、 原爆投下の8月6日には東京にいた位里は3日後に、 俊は6日後に広島に入り、一面の焼け野原を見ます。
そして5年後に、「原爆の図」のシリーズの最初の作品、「幽霊」 が発表されます。
写真は現実をそのまま写し取りますが、 時に絵画は写真以上のものを私たちの心に刻み込みます。 水墨画家の丸木位里、油彩画家の丸木俊、 その二人の深い悲しみと深い怒りが表現してくれた絵の前で、 私たちは作家の目を通して彼らの見たものを生き生きと見るのです 。
画家としての力量にも感心しました。例えば、 画面の中の構図の取り方。ほとんど色はなく、 黒い墨だけで描かれた作品の、 ラインワークだけで残す表現と濃い墨を多く使う表現の見事なバラ ンス、描かれている内容は心をえぐる悲しみですが、 表現するということに、学ぶことも多い作品です。
作品としての基本色は黒と赤、 そして黒い墨をはかなく消す色としての白。 戦火の悲惨にそれ以上の色はありません。炎と血と、 閃光としての白と。
この様な作品こそ人類の遺産というべきものでしょう。
最後はシリアスな話になりましたが、みなさん、 良いお年をお迎え下さい。
A Happy New Year!
筆:神舘美会子