11/25/2015

msb ! ニュース November


お知らせ

 12月に日本から会報が発送されます。住所変更がある方はお知らせ下さい。

 展覧会やイベントのお知らせだけでなく、仕事のこと、普段の活動のこと、また皆さんにこんなことを伝えたい、ということなどの情報も募集しています。どんなことでも結構です。ご連絡下さい。


ピーナッツふたたび
キノマホさんのピーナッツの版画作品を見にManhattan Graphic Center Mini 版画展に出かけました。版画工房の壁に100点余の3インチ×3インチくらいのサイズの版画(エッチング、リトグラフ、シルクスクリーン、木版)が展示されていました。キノさんの作品はこの展覧会でHonorable Mentionを授与されました。

前回と同じくピーナッツは登場していますが、今回は動物もいます。
ピーナッツは画面の右端でボートに乗っています。そして左端からボートのピーナッツよりずっと大きい鹿の半身がのぞいています。セピア色のどこかフラジルな線の描写で、淡いオーク色の画面にはやはり淡いピンクがところどころに重なっています。
動物が登場しているせいか、古代の壁画のようにも感じられます。あるいは絵巻物の一部のようにも。それが見る者をドリームタイムに誘うのです。キノさんのセンスに感嘆する一点でした。

Manhattan Graphic Center
250 West 40 Street New York NY 10018 5th Fl

Mini Print Show

Nov 1—Dec  8
Monday ---6pm-10pm , 
Tuesday—Friday 10am—10am,  
Saturday, Sunday 10am—6pm



私は日本の社会、政治の出来事を知りたいので、朝日新聞、毎日新聞のデジタル版をほとんど毎日見ています。11月12日の朝日新聞で思いがけないニュースを見つけました。
支部会の方々の中にはすでにこのニュースをご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、今月のニュースレターはこのことについて書かせていただきたいと思います。

「武蔵美、朝鮮大 突然、目の前がひらけて」
武蔵美に隣接する朝鮮大学との間に橋を架けようというアートプロジェクトがついに完成し、11月13日から21日まで公開される、という記事でした。(このニュースレターが皆さまに届く時には終わっていますが)
掲載されている写真を見ると、橋は木製の階段状で、両校を隔てている壁の両側に制作されています。両校での合同美術展、「突然、目の前がひらけて」の期間中、橋を渡り双方の会場を行き来できるようになっています。

この記事を見つけたのは奇しくも同時多発テロがパリで起こった日でした。デジタル版の新着記事の冒頭にテロのニュースがあり、その後、スクロールダウンしていったら、「壁と向き合う橋、武蔵野美大と朝鮮大学校の学生らが制作」というタイトルに出会ったのです。
これ何!?ドキドキする思いですぐにページを開くと、「突然、目の前がひらけて」という文字が目に飛び込んできました。たった今テロの記事を読んだばかりの頭に、すがすがしい空気が流れていくようでした。

武蔵野美大と朝鮮大学校の敷地の境界には壁が立っています。壁がお互いを隔てています。
このプロジェクトを企画したのは一人の武蔵美の教授、同校の卒業生を含む3人と、朝鮮大の学生2人。朝日新聞の記事によると、きっかけは武蔵美のメンバーの一人、灰原千晶さん。
彼女が壁の向こうを意識したのは在学中の4年前。自分のアトリエと朝鮮大の学生寮は目と鼻の先で、時々話し声も聞こえてくる。でもどんな人たちがいるのかは知らない。同世代の触れ合ったこともない隣人への思いを、壁に向かって自分の側だけの橋の作品を作り「渡れるかもしれない橋」と名付けました。作業中、朝鮮大の男子学生の寮から「何をしているの?」と声をかけられた。雨が降ればビニール傘を渡してくれたりして、小さな交流が始まります。

またその頃、朝鮮大の美術科ツイッターで知った展覧会に、仲間たちと訪れ、そこで朝鮮大の3世、4世の研究生らと知り合うことになりました。
そして、壁を越えて知り合った彼女たちは一緒に画廊巡りをする仲になります。(ムサビ3人、朝大2人の5人のメンバーはすべて女性)そして昨秋、「橋」を皆で作ろうと決めたのです。
そんな日々の中で、時に彼女たちは目に見えない壁にぶつかります。
例えば「選挙権がないって本当?」「そうそう」朝鮮大の友人が答えます。でも「そのこと、どう思っているの?」と武蔵美の学生たちは聞けない。「知ってもどうすればいいのか分からなかった」からだと言います。

こうして親交を深めた彼女たちは、アートのことだけでなく、当然二つの国の問題を話し合
うことになります。
「橋を渡す」というプロジェクトが、「平和の象徴」や「交流の大切さ」にとどまらない意味を伝えるものにしたい。そんな思いから週1、2度集まり、自分たちのルーツや互いの社会のことなどを議論するようになります。
過去の歴史についても話し、互いに質問し合う。すれ違いや沈黙、居心地が悪い時もあったけれど会い続けた彼女たち。異なった場所にいる相手と話すことで、朝鮮大の彼女は「在日であることを見つめたい」と言い、灰原さんたちは、自分たちも無意識に多数派の立場から話していたことに気づいたと言います。
そうして話し合いが続いていたある日、「いっそ壁を外そう」という案が出ました。でも朝鮮大のメンバーの一人はこう言ったといいます。
「わたしは双方の壁を認めた上での対話がしたい。この壁があってこその橋を架けたい」

1989年11月にとうとう崩壊したベルリンの壁、そして崩壊どころか今も次々に違法の入植を続け、建設されているイスラエルによるパレスチナを囲う壁。
壁は他者との対話を拒むものです。今、日本では、ことに安部政権になってから、日本と韓国、中国との間で過去の歴史認識について厳しい緊張の状態が続いています。目には見えないけれど、日本と韓国、中国との間には「壁」が立ちはだかっています。この「壁」を私たち日本人はどのようにして破るのか。隣人との和解はことに大切です。

一週間ほどして完成した橋は階段を上って行き、最後の一歩は壁をひょいとまたいで渡る。橋の上に立つと両校の校舎がよく見えます。
壁に向かって橋を架けよう。そしてその橋を渡ろうと決意したその時に、その人はすでに新しい一歩を踏み出しています。彼、彼女らは新しい世界を開いたのです。

「橋」と展覧会の詳細は


これはFacebook でサイトを開いているので、 Facebookのアカウントを持っていない私はコメントを書くことが出来ませんでしたが、アカウントを持っていられる方はコメントを送って下さい。

筆:神舘美会子